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大阪高等裁判所 昭和61年(う)204号 判決

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役三年及び拘留一〇日に処する。

原審における未決勾留日数中、四五日を右懲役刑に、一〇日を右拘留刑にそれぞれ算入する。

押収してあるドライバー一本(当裁判所昭和六一年押第九九号の1)を没収する。

理由

本件控訴の趣意は、大阪地方検察庁検察官田中豊作成の控訴趣意書記載のとおりであり、これに対する答弁は、弁護人黒田京子作成の答弁書記載のとおりであるから、これらを引用する。

論旨は、要するに、原判決は、罪となるべき事実第一として、被告人が本件各犯行前一〇年内にいずれも窃盗罪等で三回にわたり六月以上の懲役刑の執行を受けたものであるが、更に常習として、昭和六〇年四月四日から同年一〇月七日までの間、五回にわたり金品を窃取した事実を、同第二として、被告人が正当な理由がないのに(他人の住居等に侵入のうえ財物を窃取する目的をもつて)、同年一一月一日午後五時ころ、他人の邸宅又は建造物に侵入するのに使用するような器具であるドライバー一本を布袋に隠して携帯した事実を各認定したうえ、右各所為が包括して盗犯等の防止及び処分に関する法律(以下「盗犯等防止法」という。)三条、二条(刑法二三五条)に該当する常習累犯窃盗一罪であるとして法令の適用をしたが、原判示第二の所為は、軽犯罪法一条三号の侵入具携帯の罪(以下「侵入具携帯罪」という。)を構成し、原判示第一の常習累犯窃盗罪とは併合罪の関係にあるものであるから、原判決には、盗犯等防止法三条及び軽犯罪法一条三号の解釈、適用を誤つた違法があり、その誤みが判決に影響を及ぼすことが明らかである、というのである。

所論にかんがみ検討するに、原判決は、法令の適用において、被告人の原判示第一の常習累犯窃盗の所為及び同第二の侵入具携帯の所為は包括して盗犯等防止法三条、二条(刑法二三五条)に該当するとしているところ、その理由として、盗犯等防止法三条の常習累犯窃盗罪の立法趣旨に照らし、犯人が常習累犯窃盗罪と窃盗目的の住居侵入罪を犯した場合、住居侵入罪は常習累犯窃盗罪と一罪を構成するものと解する(最高裁判所第三小法廷昭和五五年一二月二三日判決・刑集三四巻七号七六七頁以下参照)のが相当というべく、さらに侵入具携帯罪の立法趣旨は、当該侵入具携帯の行為が住居侵入・窃盗罪等のより重い犯罪に至る危険ありとして、その危険が未だ潜在的状態である間に阻止することを専ら目的とするものであつて、住居侵入罪が成立するときはこれに吸収されるべき性質のものと考えられ、本件においては、被告人が原判示第一の各窃盗行為とともに、住居侵入・窃盗の目的で原判示第二の侵入具携帯行為をしたものであるところ、以上の点を考合すれば、原判示第二の侵入具携帯の行為は、原判示第二の各窃盗行為とともに包括して常習累犯窃盗一罪を構成し、別罪として侵入具携帯罪を構成しないものと解するのが筋合である旨説示している。

そこで、まず、侵入具携帯罪と住居侵入罪の罪数関係を検討することとする。おもうに、侵入具携帯罪は、住居侵入の犯行(さらにはそのうえでの窃盗等の犯行)を未然に防止するため、他人の邸宅等に侵入するのに使用されるような器具を隠して携帯する行為を処罰するものであり、住居侵入の予備的段階を処罰対象としている点において住居侵入罪の補充的規定たる性質を有するものということができる。しかしながら、侵入具携帯罪は、住居侵入を犯す目的を構成要件要素とするものではないから、住居侵入罪の予備罪ではなく、したがつて住居侵入目的の有無にかかわらず、広く正当な理由のない侵入具携帯の行為を一般的に処罰の対象としているものであり、しかも、住居侵入の行為が時間的、場所的に限定された具体的侵害犯であるのに対し、侵入具携帯の行為は無限定に継続する抽象的危険犯であつて、仮に侵入具を携帯する行為が発展して、その侵入具を使用して住居侵入に及んだ場合でも、予備罪の行為がその目的とする基本的犯罪の実行行為により終結するのとは異なり、右住居侵入後においても携帯行為が継続する限りは、住居侵入目的の有無を問わず、なお次の住居侵入を犯す抽象的危険が存続し、その行為がやはり処罰されるべきものであることにかんがみると、侵入具を携帯する行為とこれを使用する住居侵入の行為とは層を異にする別個の行為とみるべきであり、侵入具を携帯する者がその侵入具を使用して住居侵入を犯した場合でも、侵入具携帯罪が住居侵入罪に包括的に評価され吸収されるものではなく、両者が別個の犯罪として成立し、併合罪の関係に立つと解するのが相当である。そこで、更に侵入具携帯罪と常習累犯窃盗罪の罪数を考えるに、常習累犯窃盗罪が個々の住居侵入罪を吸収あるいは包括して個々の窃盗罪とともに集合的一罪を形成するものであることに照らすと、右罪数関係についても、侵入具携帯罪と住居侵入罪の関係について前述したところがすべて当てはまるということができ、また常習累犯窃盗の常習性に関連して、侵入具携帯罪に右常習性の発露を認めうるかの点については、前述のように侵入具携帯罪が抽象的危険犯であつて、住居侵入及び窃盗の目的の有無にかかわらず、すべての侵入具携帯行為を処罰の対象としている以上、その携帯行為を窃盗の常習性の発露を具現するものと限定して理解すべきでないというべきであり、結局、侵入具携帯罪と常習累犯窃盗罪とは併合罪の関係にあると解さざるを得ない。

右のように解すると、侵入具携帯罪が住居侵入罪に吸収されるべきものであるとの解釈を前提に、これと窃盗目的の住居侵入罪が常習累犯窃盗罪と一罪の関係にあることを併せ考えて、原判示第二の侵入具携帯の所為が原判示第一の各窃盗の所為とともに盗犯等防止法三条該当の常習累犯窃盗一罪を構成するとした原判決には、法令の適用の誤りがあり、その誤りが判決に影響を及ぼすことが明らかであるといわなければならない。論旨は理由がある。

よつて、刑事訴訟法三九七条一項、三八〇条により原判決を破棄したうえ、同法四〇〇条によりさらに判決することとする。

原判決の認定した事実(ただし、原判示第二の事実中「(他人の住居等に侵入のうえ財物を窃取する目的をもつて)」との記載部分を削除する。)に法令を適用すると、被告人の原判示第一の所為は、盗犯等防止法三条、二条(刑法二三五条)に、原判示第二の所為は、軽犯罪法一条三号に該当するところ、原判示第二の罪について所定刑中拘留刑を選択し、被告人には原判示の累犯前科があるので、原判示第一の罪の刑につき刑法五九条、五六条一項、五七条により同法一四条の制限内で三犯の加重をし、以上は同法四五条前段の併合罪であるので、同法五三条一項本文により原判示第一の罪の懲役と原判示第二の罪の拘留とを併科することとし、それぞれの刑期の範囲内で被告人を懲役三年及び拘留一〇日に処し、同法二一条を適用して原審における未決勾留日数中四五日を右懲役刑に、一〇日を右拘留刑にそれぞれ算入し、押収してあるドライバー一本(当裁判所昭和六一年押第九九号の1)は、原判示第二の犯罪行為を組成した物で、被告人以外の者に属しないから、同法二〇条但書、一九条一項、二項本文を適用してこれを没収し、原審及び当審における各訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項但書を適用してこれを被告人に負担させないこととし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官山中孝茂 裁判官髙橋通延 裁判官野間洋之助)

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